人気の病院・名医紹介Interview
多職種の専門家によるチーム医療で
様々な痛みの治療に取り組む
今回インタビューを受けていただいたのは、三重大学医学部附属病院の麻酔科医師・賀来隆治医師と、同病院「統合医療・鍼灸外来」の鍼灸師・向井雄高氏です。同病院は、痛みの専門外来「ペインクリニック」や、伝統医学の鍼灸(はり・きゅう)を用いて痛みをケアする「統合医療・鍼灸外来」を持つ数少ない大学病院で、様々な原因から起きる痛みに対応しています。賀来隆治医師と向井雄高氏に、痛み治療の現在と今後の展望を伺いました。

賀来医師 実は、子どもの頃から病院で診察してもらうのが苦手だったせいか、医学部に入学してからも、診察室より手術室の雰囲気が性に合うと感じていました。それで、手術室で仕事をしたいと思い、はじめは整形外科も考えましたが、麻酔科も手術室で患者さんを痛みから守り、手術が無事に行われるように管理します。それを知って興味が深まり、麻酔科医師として手術にかかわりたいと考えるようになりました。
それに、手術室には急患が運び込まれたり、ときには手術中に予期せぬ事態が起きたりしますから、迅速に対応するには「麻酔科医師は気が短い方が良い」と言われているんです。その点も麻酔科に向いていると思いました(笑)。

賀来医師 そうですね。まず、手術の前に患者さんの状態や既往症に合った麻酔の用い方を検討し、手術後の呼吸や飲み込む力が弱くなっている時間帯を安全に過ごして、もとの状態に戻っていただけるようにサポートするのも麻酔科医師の役割です。
こうした手術での麻酔業務の他に、外傷や病気による痛みの治療や、がんなどの患者さんで積極的な治療が難しい場合、痛みをコントロールして、できるだけ安らかに過ごしていただく緩和ケアにも、麻酔科の技術を応用しています。また、当院の「ペインクリニック」や「統合医療・鍼灸外来」では、麻酔科医師と共に多職種の専門家がかかわっており、鍼灸師の向井先生もそのひとりです。

向井氏 私の父が内科医師なので、仕事とは病院で働くことだというイメージを持っていました。それに私はスポーツが好きで、医療でアスリートを支えたいと考えて、鍼灸学部のある大学に進学したんです。
鍼灸は紀元前から実践されていた治療法で、全身に点在する経穴(けいけつ)、一般にはツボと呼ばれる場所を刺激することで、病気や痛みを治そうとする力を引き出します。
私が実技を習得して、初めて施術したのは自分の祖母でした。そのとき祖母が「おかげで楽になった。痛みのある人にとって、短くても痛くない時間があるのは嬉しいものだよ」と言ってくれて、人に喜んでもらえる仕事を選んで良かったと思ったのを覚えています。

賀来医師 外傷、病気による一時的な痛みを急性痛と言い、外傷や病気が治ると急性痛もなくなることが多いです。一方で慢性痛と言われる、原因が治っても続く痛みや、原因が分からず長引く痛みもあります。当院の「統合医療・鍼灸外来」や「ペインクリニック」は、主に慢性痛を診療する外来で、当院内の整形外科や内科の医師から「痛みが治らない患者さんを診てほしい」と紹介されるケースもあるのです。
そのような治りづらい痛みに対して、「ペインクリニック」では主に局所麻酔や薬物療法、近赤外線照射などの治療を行います。また、鍼灸治療を通して、患者さんのストレスや生活の改善も含めて、統合的なケアを目指すのが「統合医療・鍼灸外来」です。

向井氏 外傷や病気の治療は完了したはずなのに痛みが続くと、「他にも悪いところがあるのかも知れない」と心配になりますよね。でも、みなさん経験があると思うのですが、人間は不安を感じると、肩や首に力を入れて身を守ろうとします。
外傷や病気でストレスが続いていた人も、そういう状態になっていることが多いのです。すると筋肉が緊張して血流が悪くなり、身体に酸素が充分に行き届かず、痛みを引き起こす物質が生産されやすくなります。そこで、鍼やお灸で硬直した筋肉をほぐすことで、痛みの改善が期待できるんです。
なかには薬で素早く解決する必要がある人や、運動療法が適している場合もありますから、薬剤師や理学療法士の方たちと協力して、一人ひとりの痛みに適した治療に取り組んでいます。


賀来医師 麻酔業務だけでなく、外来診療で患者さんの話を聞き、その悩みに向き合う経験は大切です。そのとき、私自身の心や身体が健康でないと、患者さんの苦しみを受けとめられないですから、余裕を失わないように、日々、気持ちをリセットするようにしています。
時々、ランニングのイベントに参加しているのですが、先日、三重県伊勢市で開催されたハーフマラソン大会に参加した際、レース中に具合が悪くなられた方を無事に救助することができ、感謝状をいただきました。そのご縁で、次回の大会には招待選手として参加できるそうなので、体力づくりをして備えようと思います。
向井氏 これまで出会った患者さんのなかに、あらゆる診療科を受診しても病名がつかないけれど、痛みと疲労感が辛くて、仕事ができないという方がいらっしゃいました。その方が、私の鍼灸治療に10年以上、通われるうちに徐々に症状が改善して、再就職されたんです。そのとき、「長い間、諦めずに治療してくれて、ありがとう」と言っていただきました。患者さんの方こそ諦めずに通ってくれたのですし、その信頼に応えようと粘り強く取り組んだ結果、実りを得られた経験です。これからも「治療を受けて良かった」と思ってもらえる出会いを積み重ねていきたいと思っています。

賀来医師 痛みは身体に異常が起きているというサインですが、あまりに長く続くとサインの域を超えて害になり、生活の質を下げますから取り除かなければいけません。そういう厄介な痛みの治療に、多様な分野のプロフェッショナルが協力して携わる体制を、より充実させていきたいですね。また、三重県は国内でも麻酔科医師が少ない県なので、後進を育成することでも痛みの治療を支えたいと考えています。
みなさんにとって麻酔科は、他科に比べて馴染みが薄いかも知れませんが、当院の「ペインクリニック」や「統合医療・鍼灸外来」は、地域に開かれた麻酔科の一般外来です。慢性的な痛みや、原因の分からない痛みに悩んでいる方は相談にいらしてください。
向井氏 痛みは症状であると同時に、生活設計を脅かす困りごとでもあります。学校や仕事に行けないほどの痛みは深刻ですよね。
しかも、痛みの程度や治り方は十人十色で、治療の正解がひとつではありません。だからこそ、治療の選択肢は多い方が良いので、異なる専門分野の方たちと一緒に取り組みながら、鍼灸治療が有効な選択肢のひとつになるように貢献したいです。
また、当院の「ペインクリニック」や「統合医療・鍼灸外来」には、かかりつけのドクターの紹介で来院されるケースがよくあります。そういう形で、より専門的な治療を受ける機会につながることがありますから、日頃から身近なドクターとの信頼関係を築いていただきたいですね。
病院名・役職はインタビュー当時のものです。
インタビュー:2024年2月21日
| 1996年 |
岡山大学医学部卒業 |
|---|---|
| 1996年 |
岡山大学医学部附属病院医員(研修医) |
| 1996年 |
広島市民病院 麻酔・集中治療科 |
| 2000年 |
岡山大学医学部附属病院 医員 |
| 2007年 |
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒業 |
| 2007年 |
アメリカ合衆国コロンビア大学麻酔科 |
| 2009年 |
アメリカ合衆国ウィスコンシン大学麻酔科 |
| 2009年 |
岡山大学病院 麻酔科蘇生科 助教 |
| 2011年 |
岡山大学病院 集中治療部 助教 |
| 2013年 |
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 麻酔・蘇生学 助教 |
| 2018年 |
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 麻酔・蘇生学 講師 |
| 2022年 |
三重大学大学院医学系研究科 臨床医学系講座 麻酔科学 教授 |
| 【資格】 |
医学博士、麻酔科指導医、麻酔科標榜医、集中治療専門医 |
| 【所属学会】 |
日本麻酔科学会、日本臨床麻酔学会、日本集中治療医学会、日本ペインクリニック学会、日本区域麻酔学会 |
| 2008年 |
鈴鹿医療科学大学 鍼灸学部鍼灸学科 |
|---|---|
| 2009年 |
鈴鹿医療科学大学 東洋医学研究所附属鍼灸センター |
| 2010年 |
三重大学医学部附属病院 麻酔科 統合医療・鍼灸外来 |
| 2017年 |
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JASPO-AT) |